大阪府公立高校 大学進学特化の動き

2010年3月11日 木曜日

2月13日(土)の読売新聞に「工業高 進学にも対応・・・大阪などで改革」という記事が掲載されていました。

文部科学省が行っている調査によりますと、工業系学科を卒業して就職する生徒の割合がこの20年で79.2%から62.8%に下がり、進学の割合が逆に6.2%から17.5%にアップしています。工業高校を卒業してもすぐに就職しないで大学や専門学校に進学するケースが多くなってきていることがこのデータではっきりわかります。

また、昨今の大学進学希望者の増加によって工業高校自体の人気が低くなっていることも確かです。それが証拠に、同じ文部科学省の調査によると工業系学科のある高校は全国で575校、20年前に比べると115校も減っています。普通科やその他大学進学に特化した高校・学科に受験生が流れ、工業高校の需要が低下してきているので、統合をかけているのです。

全国的にこういった流れになっている中、大阪府教育委員会は2005年度に工業高校を12校から9校に減らしたのと同時に、就職と進学の双方に対応できる学校であることをアピールするため、従来の「工業」高校から「工科」高校へと名称を変え、全校で授業内容を見直しています。

その中の1校である大阪市西成区にある今宮工科高の取り組み内容が紙面で紹介されていましたが、それと合わせてここ数年で大学進学者の割合が増えているというデータが紹介されています。

今宮工科高
大学進学希望者の割合 04年度10.6% → 08年度20.0%

同高はこういった現実を受けて「英語や物理などの教科を多く履修するコースも設定し、大学受験用の補習も充実させた」と読売新聞は報じています。

工業高校であっても授業内容を刷新して大学進学に対応している例が紹介されたわけですが、それ以外でも大阪府では大学進学に強い公立高校を作ろうということで、様々な取り組みが行われています。今回のエントリーでは、それらをまとめてみたいと思います。

①進学指導特色校10校・文理学科設置
まずは、やはり2011年4月から開始となる「進学指導特色校10校(北野・豊中・茨木・大手前・四條畷・高津・天王寺・生野・三国丘・岸和田)に文理学科を設置する」ことが真っ先に挙げられます。文理学科についての情報は未判明の部分が多いのですが、先日のエントリー「大手前高 進学指導特色校としての取り組み」で大手前高のカリキュラム予定をご紹介しています。

②普通科単位制
次に、ここ数年で行われている面白い取り組みとして「普通科高校の単位制化」があります。大阪府下には公立の単位制高校が4校あり、これらの高校の通学区域は府内全域となっています。

長吉高(大阪市平野区) 2001年単位制へ移行
槻の木高(高槻市) 2003年高槻南高と島上高を合併・開校
鳳高(堺市) 2008年単位制へ移行
市岡高(大阪市港区) 2009年単位制へ移行

これら単位制の公立高校は全日制の普通科高校と同じように毎日朝から登校することが必要で、その上で下図のように普通科やその他学科と比べて「科目の自由選択幅が広い」という単位制の利点を最大限に利用出来る点が特徴として挙げられます。

普通科とその他学科 単位構成の違い1※クリックすると拡大します

数年前の話ですが、大阪府東部にございます「ある私立進学校」の先生方に「今一番気にしておられる学校はどちらですか?」という質問をしたのですが、府県は問わず同じ私立の伝統校あるいは新進気鋭校の名前が挙がるかと思いきや、「公立の槻の木高校です」という意外な答えが返ってきたことを鮮明に覚えています。

理由は「金・土の補習、夏期・冬期の補習、といった私立顔負けの手厚い指導と、単位制の良さを活かした自由選択制を利用して3年次後半はほとんど入試対策に充てる、など計画的に受験指導を行っている。それが公立高の授業料で受けれるのだから・・・」ということでした。単位制へ移行してまだ間もない同校ですが、これらの取り組みが実際に大学進学実績にすでに現れています。

今年槻の木高では、関西大 前期入試終了時点で現役だけで42名、推薦入試などでの合格者数も含めると現役のみで50名という関西大合格者数になっているようです。昨年は前期・後期合わせて現役20名、浪人23名、合計43名という合格者数でしたから、今年は「関大合格者数は前期だけで、しかも現役だけで昨年の数を超えた」という、まさに大躍進となっています。今年のすべての大学入試結果が出揃うころにはどのような実績になっているのか、今から楽しみです。

③スーパー商業高校(2012年開校)
工業高の大学進学特化、進学指導特色校・文理科、普通科単位制に続く取り組みとしては「2012年(今の中1生が進学する年)のスーパー商業高校の設置」があります。スーパー商業高校というのはこれを書いている私が勝手に呼んでいる名称ですので、ご容赦ください。しかし予定されている取り組み内容を見れば「スーパー」と呼ぶ理由が少しご理解いただけると思います。

現在、大阪市立の商業高校3校(天王寺商業高・市岡商業高・東商業高)を1つに合併し、企業・有名大学との連携をからめて「高大一貫ビジネス教育」を実施する計画が明らかになっています。詳しい内容が大阪市から発表になっています。

大阪市立 新商業高校※クリックすると拡大します

上の文書をご覧いただければおわかりのように、(平成21年7月現在というただし書きがありますが)連携先の大学として「大阪市立大・関西大・関西外国語大」の3大学が挙げられており、しかも「連携入学制度(大学・学部・学科ごとに入学条件は異なります)」という記述もされています。

今の段階では詳しいことがまだほとんどわからない状態ではありますが、近畿地区の人気国公立大の一翼を担う大阪市立大に推薦で入学できるようなことがあるのであれば、かなりの人気になりそうです。これこそが私が「スーパー」と呼ぶ所以なのです。

ご紹介したように、ここ数年で大阪府公立高は大学進学に特化した学校づくりを積極的に進めています。当然、私立高も負けてはいません。

公立・私立が切磋琢磨し、より良い教育環境を持つ学校が増えつつあります。その変化を見過ごさないように、受験生・保護者は入試・学校情報には敏感になっておく必要があるでしょう。