「大学入学希望者学力評価テスト」の記述について

2016年10月27日 木曜日

10月26日の朝日新聞に現在行われている、「大学入試センター試験」の代わりに2020年導入予定の「大学入学希望者学力評価テスト」(仮称)(以下「新テスト」と表記)に関する調査結果が掲載されていました。国公私立746校を対象とし、654校(88%)が回答したアンケート結果です。現在、文部省管轄の大学は全国で775校ですが、奈良先端技術大学院大学のように、大学院のみの大学や芸術系のように学力試験を課さない大学などもありますので、ほぼ日本中の大学を網羅した調査結果だといえます。(大学の数、2016年現在、国立86校、公立88校、私立601校)

(朝日新聞 2016年10月26日 朝刊より)

新テストには思考力や表現力も測定するために記述式を導入することが検討されていますが、その採点や出題方法についてはまだ議論が続いています。センター試験は毎年53万人ほどが受験していますが、同規模の受験者が参加すると仮定して、英語1科目で考えますと、記述答案1枚採点するのに10分かかるとすると、採点だけで530万分、すなわち約9万時間かかることになり、チェックも含めるとその2倍程度、すなわち20万時間ほどが必要になります。これを2週間で処理しようとすると、休みなく14日間、一日8時間採点できる人を2000人集めなければならないことになります。採点基準の統一ということを考えると採点者が多いというのは問題でしょう。しかも採点基準から外れるような答案が出てきた場合、途中で基準が変更されることも考えられ、その基準の再徹底と採点のやり直しをする場合も想定されますので、実際にはこの数倍の人数が必要だと考えられます。国語など全教科で記述を導入すると何と1万人以上の採点者が必要だということになります。そこで、文部科学省は、2次試験を受ける大学側が、記述部分の採点をしましょう、という方針を出したのですが、今回の調査はこの方針が出る前ですので、二つ目のグラフの「記述式導入の実現可能性」についてはかなり厳しい結果になっています。ただし、この各大学で採点となりますと各大学の採点負担が増加しますので、3つ目のグラフに示されている「利用したい」という大学はさらに少なくなると思います。

そもそも大学によって入学してほしい学生像というのは異なるはずですので、その大学が独自に作問した記述問題の方がふさわしいのでは、という議論もあります。今回のアンケート結果の一つ目のグラフで約4割の大学が記述問題の導入に消極的だということは、思考力や表現力が必要ないというわけではなく、大学独自の取り組みを重視するという考えも反映されていると思います。

この新テストについて、利用する大学側からの支持が無ければ利用率が下がることも予想されます。つまりこのままでは受験者(利用者)が減るという可能性もあるわけです。

次回の東京オリンピックに関する報道も増えてきましたが、同じ年に導入される、この新テストについても具体的な方針の発表と周到な準備が行われ、初めての受験生(現在の中2)が混乱しないようにお願いしたいものです。