1月21日の読売新聞にて、「東京都全都立高校で日本史を独自に必修科目とする方針を固めた」と報道されていました。
現在の学習指導要領では「地理歴史」のうち必修科目は世界史だけとなっており、日本史と地理は選択科目とされています。日本史は地理と比較すると必要とされる学習量が非常に多く、特に理系を志望する生徒の間では地歴3科目中地理を選択することが定番となっています。
しかし最近では、読売新聞でも報じられておりますように、「常識的な日本史の史実でも知らない生徒が多いとの指摘」が増えており、2006年には東京都と首都圏3県の教育長が文部科学省に日本史必修化を求める要望書を提出するまでに至っています。
現在では、神奈川県と横浜市がすでに日本史必修化の導入を決めています。また、東京都では日本史の必修化は検討段階ではありますが、全日制・定時制の都立高約230校のうち約半数が既に校長判断で日本史を必修としています。最終的にすべての都立高への導入を目指している、とのことです。
大学入試の世界でも、社会科を重要視する動きが出てきています。今の高1生が受験を迎える2012年度より、大学入試センター試験の社会と理科の選択制度が下の図のように変更になります。
これまでは地歴・公民それぞれから1科目を選ぶ形だったところ、2012年度からは地歴・公民の枠は関係なく最大2科目を選ぶ、という形になります。またこれまでにはなかった「倫理・政治経済」という、倫理と政治経済の両科目の内容が問われる科目も新設されます。
この制度変更により、これまでには組み合わせることができなかった、例えば「日本史Bと世界史B」というような、非常に学習内容が多い科目2つの組み合わせで受験することが可能になりますし、各国公立大もそのような形で入試科目を指定することができるようになります。
この発表を受け、昨年春には東京大が早々と2012年度入試科目(センター試験)を以下のような形に変更すると発表しています。
ご覧の通り、公民分野からは新設される「倫理・政治経済」しか選択できなくなります。また表での紹介はありませんが、理系の受験生も「世界史B」「日本史B」「地理B」「倫理・政治経済」の中からの選択となります。理系の受験生はこれまで選択可能だった「現代社会」「世界史A」「日本史A」が選択できなくなることを考えると、大変な負担増となります。理系の受験生であっても社会を重視する動きになっている、ということがわかりますが、やはり先にご紹介した「常識的な社会科の内容を知らない生徒が多い」ということを東京大の先生方も思われての措置なのでしょうか。
また、旧帝国大を含む難関国公立大でも同様に社会科の扱いをこれまで以上に重要視した形の入試科目へ変更されつつあります。
さて、これとは全く反対の動きを示しているのが、近畿地区の中学入試における社会科の扱いです。
次の表は今年2010年度入試から4教科型の入試から「3科・4科選択型入試」を導入することで場合によっては社会なしでも合格が可能となった、そんな中学の一部を表にしています。「事前出願」に丸がある学校は「出願時に選択した科目数でしか判定しない」というもので、「自動計算」に丸がついている学校は「4教科で受験した場合は4科合計と3科×○○で比較して得点の高い方で判定する」というものです。
大阪府男子校を代表する名門大阪星光学院中が3科・4科選択型入試導入を発表すると、それを受けて高槻・明星といった学校が後に続く形で続々と3科・4科選択型入試の導入へと踏み切りました。
この動きには、灘中を筆頭とする兵庫県男子の上位校が軒並算国理3科入試を実施しているということが大きく関係しています。
兵庫県男子の上位校を第一志望に考えていた方は、早くから算国理3科に絞った対策をとってきています。しかし、入試直前になってその志望校に成績が届かなく、受験校を変更せざるを得なくなってしまった場合、社会が必要となる4科でしか入試を行っていない学校はおのずと受験候補からは除外されてしまいます。
3科での受験校を目指して対策をしていた受験生の志望変更先として受験してもらうためには、兵庫県男子上位校と同じく「3教科型入試」を導入するのが必要となります。そういった意味で、大阪星光学院中をはじめとして洛星・高槻といった上位の男子校を中心に多くの学校で、従来の4科と合わせて3科でも判定出来る入試形態とした、というのが近畿地区の社会科にまつわる大きな動きです。
高校教育の現場と大学入試においては社会科の重要性を再認識し、それを念頭に置いた制度変更が行われつつある一方で、中学入試の世界では入試で社会が無くてもどうにかなってしまう学校が増えている、という全く正反対の動き。
皆さんはどう思われますでしょうか?