開成教育グループ

このページを閉じる

塾生保護者の子育てエッセイ 子育て百景

成学社賞

信じる

北風と太陽様

息子は友達の誘いで、小2からラグビーをしている。練習日にはしぶしぶ起き、練習中も必死さは見せない。(私が子供の頃は何事にも一生懸命取り組んだものだ。)と思っていた。親として、「もっと必死になってみないといけないよ。」と、しょっちゅう言って聞かせてきた。いつも息子は嫌な顔ひとつせず、真正面から聞いてくれる。でもすぐに元通りのやる気のない子に戻ってしまう。私はすっかり自分の子育てに自信を無くしていた。

4年生の試合での事、いつにも増してだらだらとしている。息子だけを切り取って見れば、芝生をふざけながら散歩しているかのようだ。もちろん大敗。試合後、親子で険悪なムードだった。放っておいたら、お弁当の時間になっても見当たらない。あちこち探し回り、公園管理室の建物の影に、体育座りで膝の間に顔をうずめている息子を見つけた。一人で涼んでいるのだろうか。みんな試合後の反省をしているというのに。二言、三言言ってやろうと早足で向かった。俯いた顔の下のコンクリートが濡れている。息子は静かに泣いていた。それを見ても愚母である私は、(またいつもお得意の『あいつのせい理論』を考えて腹を立てて泣いてるんだな。)と速足が加速した。「みんなお弁当食べてるでしょ!みんなと同じこともできないの?」と、私は怒鳴った。でも、返事はなかった。いつもはすぐに言い訳するのに何やら様子が違う。コンクリートに水たまりができそうになった頃、ぼそりと息子が言った。「腰がいたい。」「痛くて泣いているの?」と私は聞いた。息子は、首を振るだけだった。もうコンクリートに水たまりができている。ぽつりぽつりと息子が口を開く。「試合前の練習で急に痛くなって、曲げられない。歩くのはなんとかできる。」私は絶句した。そんなに痛いの?試合中、ゆっくりでも走っていたから。

息子のチームはぎりぎりの人数で一人でも欠ければ、試合に出られない。「みんなのために試合に出たけどみんなの役に立てなかった。」と、息子は泣いていたのだ。

自分が悪い母だと思った。なぜならうれしかったから。いつの間にか、わが子は仲間のために行動する子になっていた。結果的に迷惑をかけてしまったが。(今、この子は自分の痛みよりも、仲間のことを思って泣いている。)そう思うと言葉が出なかった。

息子は仲間のことを優先して考えられる子になっていた。彼は彼なりに一生懸命だったのだ。私の一生懸命の想像図とは違うだけだった。確実に着実に息子は成長していることを実感できる出来事だった。

これから親にできることはどんどん減っていく。一番するべきことは、信じてやることだと改めて思った。私は深く反省しながら、ただそばに座っていた。

今、六年生になった息子は、仲間と共に元気いっぱいにラグビーを続けている。

受賞作品一覧に戻る