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開成教育グループ


「露和会話集」を読む

我が家には「露和会話集」という本があります.これは日本を訪れるロシア人のために編まれた本で,私が四半世紀以上前にロシアに渡航したときに (とはいっても当時は「ソビエト連邦」,略称「ソ連」という国が存在していたので,ロシアから,今問題のウクライナにもパスポートなしで行けたのですが) 買ってきたものです.なぜこの本が,「ベリョースカ」という外貨のみでしか買い物ができない店 (当時のソ連には外貨獲得のためにこんな店がありました.当然ですが,ふつう現地の人は入ることはできません) にあったのか,今考えれば疑問なのですが,いったい誰がこれを買うのかと思いつつ買ったのを覚えてます.

ハードカバーであるにもかかわらず日本円で500円ぐらいだったと思います.ソ連は本が安かった.政府のプロパガンダのためにか,外国人が出入りする空港にはいろんな言語で書かれた冊子が何種類も置かれていて,これなどは無料で取り放題でした.いくつか持って帰ったのですが,未だに何語かさえ分からないものも多数あります.アルファベット系の文字で書かれている言語であれば,それなりにタイトルの意味ぐらいは推測できますが,アラビア語 (あるいはペルシャ語?) の本の場合は,さっぱり解りません.私にはページの順序を追うことで数字だけが辛うじて解るくらいです.でも日本語の本は意外と少なく,ベリョースカに売られていたのが「露和会話集」とあと1 冊ぐらい.空港では1,2 冊しか見かけませんでした.だから,「露和会話集」を珍しく感じて買ったのでしょう.ひょっとしたら,旅行中に使えるかもという魂胆もあったのでしょう (まるで使えなかった).

当時はソ連という国が存在し,もちろん社会主義国家でした.この「露和会話集」もその政治情勢が反映されており,挨拶には「同志の皆さん!」が当然入っています (!ももちろんついています).ただ,面白いのはそういったところだけではなく,日常会話のところに登場する例文でした.以下は,収録されている日本語を原文のままに記していきます.

 

「新鮮なおジャガを頂戴」いったいどこで買い物をすることを想定しているのでしょうか.スーパーで,もしこんなことを,しかも外国人に言われたら店員も引いてしまうのでは…?この本には買い物での会話の例として挙げられていますが,これに対する返答は書かれていません.さらにこのあとの会話は「この間の○○○はよくなかったわよ」とクレームが続きます.なぜか女性っぽい言葉になっています.これを使ったロシア人男性に話しかけられたら,ひょっとしたら逃げるかも.

 

「おい,ポポフさん,地震じゃないかい?」悠長な会話です.ロシアにも地域によっては地震がないわけではありませんが,日本とは比較にはなりません.なぜかこのあとの会話は,地震そっちのけで,日本にはいかに地震が多いかの会話が延々と続いていきます.東日本大震災も阪神大震災もまだ起こる前に書かれた本なので,やむを得ないでしょう.今もしこのような本が出版されているのなら,どうなっているのでしょうか.

 

「僕は三角は大嫌いだ」学生同士 (だと思われる) の会話,得意科目は物理だとかなどという会話が交わされたあとに突然このフレーズが登場します.三角関数のことでしょうか.物理といった教科のあとで登場するのだから,もしかしたら「三角」という教科があるのでしょうか?三角関数を苦手とする学生は国籍を問わず多いということでしょうか.

 

「膃肭臍」「海豹」「雲円」やはりロシア人で日本人と接する機会が多いのは漁業関係者でしょう.そういった人たちのために,海の生き物についてはやたら語彙が豊富です.それは当然なのですが,そのほとんどが漢字とキリル文字の併記で書かれています.最初のものは「オットセイ」ですが,私はこの漢字は読めず,その下に書かれているキリル文字での表記でようやく読めました.漢字の勉強になりました.私のパソコンでは「おっとせい」と入力しても変換できません.その次は「アザラシ」.これもキリル文字でようやく読めました.ただ,こちらは「あざらし」と入力すればきちんと「海豹」と変換できるので,「膃肭臍」よりはメジャーなようです.しかし,これでは漢字クイズの本を読んでいるような錯覚に陥りかねません.こんな難しい漢字が次々と登場するのですが,最後の「雲円」は果たして何でしょうか?これは「ウニ」です.もちろん間違っています.正しくは「雲丹」です.外国人の目からすると「円」と「丹」は紛らわしいようです.というか,私もどうやって区別できているのかと改めて考えてしまいました.これを考えると,日本語の読み書きがちゃんとできる外国人 (ときには負けると思うほどの方もいらっしゃいます) はすごいと思います.

 

こういうのを見ていると,月並みなことですが,異文化を理解する,異文化を記述するというのは,本当に難しいのだと思ってしまいます.バイアスや誤りといったものが入るのが当然.鵜呑みにせず自分でも考えていかないといけません.でも,それは何にでも当てはまることですが.

 

開成ハイスクール 片岡尚樹


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