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2013 年 7 月 1 日 のアーカイブ

「人生相談」を読む

2013 年 7 月 1 日 月曜日

 誰もが多忙である.高校生の皆さんは中間テストが終わったかと思えば,期末テスト,これが終われば夏休みではありますが,山のような課題が待っているかも知れません.私も期末テストが終われば,夏期講習の準備となる予定でありまして,まさしく多忙であります.
 多忙な折に,真剣にはならずして読むのが,「人生相談」本であります.決して,感情移入せず,他人事と思いつつ読むのがベストであります.
 まずは西原理恵子『生きる悪知恵』(文春新書).彼女の経歴や他の書いているものを見る限り,彼女は,漫画家としてデビューする前も,デビューしてからも,想像を絶するほどの人生の修羅場を歩んできているから,親子関係などに対しては割り切った回答も多いし,甘えているような質問に対しては厳しい回答も多い.例えば,「空気が読めないとよく言われる」という悩みに対しては,「空気が読めないことが許されるような,できる人間になれ」と手厳しい.ただ,私と同年代ということもあるので,私にとっては納得できる回答も多く,私としては多少のストレスの発散にもなる回答です.人生経験については,まったくレベルが違うので,偉そうなことがいえる立場ではないのですが.
 続いて,土屋賢二『われ悩む,ゆえにわれあり』(PHP新書).哲学者でありながら,ふざけた文章で有名な土屋先生の本である.私は大学時代に,まだこのようなふざけた文章を書くことは周知されていなかったころの土屋先生の授業を受講するチャンスがあったのだが,残念ながら,夏休み中の集中講義であったこと,前の年度でその該当科目の単位をすでにとっていたこと,「哲学と知 ― ギリシャを中心として」といういかにも眠りに引き込まれそうな(今や,ご本人が「私の講義を聞くと,あくびの仕方は身につく」などと書かれていますが)講義題目であったことが原因で,受講することはなかった.私は,大学時代にやっておけばよかったなと思うことが三つあるが,これはそのうちの一つである.この本は,土屋先生の色が濃い回答であり,比較的真面目に書かれていて,いつもの自虐ネタの炸裂度もやや抑え目である.しかし土屋先生はいつも「妻」をネタにしているが,ここまでネタにしていて家庭ではもめないのか?羨ましい限りである.
 支離滅裂になりつつあるので,次へ行く.やはり人生相談の決定版であり,気分が煮詰まったときは,中島らも『明るい悩み相談室』(朝日文庫,全7冊)にトドメをさす.前世紀のものでありながら,一部の時事ネタを除くと,今でも通用する(はず).質問も中島らもが作ったのではないかと噂が立ったほどの馬鹿馬鹿しさであり,悩むのも馬鹿馬鹿しくなると言う代物である.しかしこんなふざけたモノが朝日新聞に連載されたということも今をもって驚きであります(「ふざけてる」という投書が相当来たらしいが,ふざけているのだからしょうがない).相談も「毎朝,上の階に住んでいるオバサンが「しこ」を踏むので何とかしたい」「スイカはどこまで食べるのが常識的か」「ヘビのしっぽはどこから始まるのか」などといったものであり,それに対する回答もそのノリで書かれている.「ジャガイモに味噌をつけて食べると死ぬと言われたが本当か」の相談に対しては,「ジャガイモに味噌をつけて食べた人は必ず死にます」(嘘はついていない.「人は必ず死ぬ」は真の命題なので,「人」の部分集合である「ジャガイモに味噌をつけて食べた人」についてももちろん成り立つ)などと回答して物議を醸し,ほんとうに「ミソをつけて」しまった.このときは,数十年間,ジャガイモに味噌をつけて食べるのを好物にしている人から「私は死ぬのでしょうか」と切実な手紙も来たらしい.まあ,私にとっては煮詰まったときの息抜きではあります.
 最後に,これは人生相談本ではないけど,新井紀子『こんどこそ!わかる数学』(岩波ライブラリー)に一つの相談があります.「私は数学が大嫌いです.こんな私が数学の授業を受けるのは無駄ではないでしょうか.この時間にもっと有意義なことをしたほうがいいと思うのです…」共感する人が多いのでは?この質問,この本の著者の新井氏が中学時代に日記に書きつけた疑問なのだそうです.新井氏は中学,高校と,数学が嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで,大学は文系の法学部を選び,合格通知が来たその日に,家の庭で数学の参考書の類を全て燃やしたという経歴のある人ですが,それが,今や数学者となり,こういう本を書いた人です(そこにいたる過程については,一昨年あたりの雑誌「大学への数学」にインタビューが連載されていますので,それを参照して下さい).というわけで,月並みなようですが,ここに真実あり!今やっていることが,将来どういう意味をもつかはわかりません.何事も,とにかく切り捨てずに頑張って取り組んでいくことこそが,まさに「人生」そのものなのです.
 
開成ハイスクール 片岡尚樹