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2013 年 4 月 15 日 のアーカイブ

封印された日本の秘境

2013 年 4 月 15 日 月曜日

 今,私の周りには本が山のように積まれている.とはいっても知性を感じさせるような学術書はまるでない.まだ,比較的知性を感じさせるのは各種教材ぐらいで,あとは怪しげなトンデモ本にいたるまで,手当たり次第に積まれている.静岡の地震で本の下敷きになったという人がいたが,私も同じ道を歩むだろう.現に阪神大震災のときは間一髪だった.
 ただ,このように手当たり次第に積まれていると,このようなブログの原稿を書くネタも探せるので助かる.というか,ネタに窮しているのでこれに頼らざるをえないのである.
一冊の本を手に取る.「封印された日本の秘境」とある.こんなものいつ,どこで買ったのか,記憶がない.何で買ったのかも記憶にない.おそらくどこかのコンビニでパラパラと見て何かのついでに買ったのだろう.もともと私は廃墟が好きだ.トルクメニスタンの「オールド・ニッサ」遺跡にも行ったし,ブハラに行ったときも,さらにはイスタンブルに行ったときにも朽ち果てかけた城壁をわざわざ見に行ったものだ(一応観光地ですので念のため).かつて琵琶湖畔にあった「幽霊ホテル」にも行ったこともある(これは観光地でもなんでもない.ちなみに一人で行ったわけではなく,取材のようなものだったので念のため).既に爆破破壊され撤去されてしまった(You Tube で見られるらしい)が,行った当時には中に住んでいる人もいた.あの人たちはどこへ行ったのか.
 というのはさておき,この「封印された日本の秘境」,目を通してみる.日本各地の秘境が登場する.その中にとある九州にある観光地(あえて具体的な地名は書かない.どこなのかを知りたい人は個人的に聞いて下さい)が登場する.この観光地は私も行ったことがある.思い出す.ここが書かれていたから買ったのだ.目を通す.ここに書かれていた内容と同じ経験を私もしたのだ.私もその記憶を「封印」していたのである.
 ここはある目玉の観光地があるのだが,それはすぐに見終わってしまうものであり,あとは周囲の景勝地を見てまわることになる.同行者が趣味で選んだ奥地の温泉宿がその日の宿である.その宿に行くにはまだ時間があった,というか,宿のある所まで行くバスの時刻が変更されていたため,予定していたバスがなく,次のバスまでの待ち時間が大幅に余ってしまったのである.まず,ある寺に行く.ここはリフトで登った山の上にある.こんな所にリフトがあるのかというところにリフトはある.大丈夫なのか,落ちることはないのか?とはいえ,山を登るのはきつい.山を登るのは上がるときには山を眺めながらなので,とくに問題はなかったものの,強風はすでに気になった.そしてこのリフト,下りが恐い.強風の中,左右に揺れつつ降りていく.目の前に眺望が開けるのもそこに投げ出されるのではないかと逆に恐怖である.以前,グルジアに行ったときに乗ったロープウェイがその後に落下事故を起こしたことを思い出す.あれも乗っているとき,相当に危なかしかったが,これほど恐ろしくはなかった.確かに高い所は得意ではないが,それにしても恐い.このあと,未だにリフトを見るとつい二の足を踏みそうになる.それぐらいのトラウマを残すリフトだった.
 しかし,本当に恐いのは,リフトのあとだった.まだまだ時間がある.「ハイキングコース」という標識がある.そんなに距離はないようだし,同行者も私も歩くことが嫌いではないので,それを辿ることにする.標識に従って進んでいくと,徐々に道が怪しくなる.道を間違っていないかを確認するが,どうやら正しいらしい.よくある話だが,標識にいたずらをして行き先を変えているということもなさそうだ.そうこうしているうちに道がまず獣道となる.木が生い茂り枝が邪魔になる.足元も草はボウボウ,石はゴロゴロ.でもどうやら道は続いている.さらに状況は変わり,先の道がなくなる.いや,正確には「道」はあるが,それは切り立った断崖絶壁の一部を削り取っただけ,あるいは削れただけの「道」である.立って歩くことはもうできない.せっかく来たのだし,これは何かこの先もっと面白いことが起こるかもと,その「道」を這って進む(念のために言っておきますがこれは「ハイキングコース」です.はっきり標識にそう書かれていました).そして「道」はついに断崖絶壁に鎖が打ち付けてあるだけで,あとは崖にごく僅かの足場があるだけのものとなった.海外のある都市で,バスが道を間違って進み出しても面白がって最後まで乗るような(このときは結局,小屋が一つだけある丘の上で下ろされたが,目的地にはたどり着けた)私もさすがにこれでは命が持たない.一人で歩いているわけでもないので,ここまでで引き返した.こんな所が,海外ならいざ知らず,日本にもまだこういう所があるのか,というのがそのときの感想だった(これも念のために言っておきますが,これは何十年も前の出来事ではありません.).
 などということをこの「封印された日本の秘境」は思い出させてくれたのだった.新年度早々,何て話を書くのだ,と言われそうですが,落ちそうで落ちなかったということで,縁起のいい話としてご勘弁のほどを.

開成ハイスクール 片岡尚樹