大学入試合格最低点の見方

2021年7月2日 金曜日

各大学からそろそろ次年度に向けた「入試ガイド」を手にするようになってきましたが、そこに掲載されている合格最低点についてのお話です。

当然ですが、毎年入試問題は変わるので、合格最低点が下がったから、合格しやすくなった、というような見方は間違っているのですが、学部や学科の入試における序列を確認するという使い方はできると思います。そこで、昨年度、共通テスト利用の拡充もあり、志願者も増えた龍谷大学の資料を見てみたのですが、一般前期の日程の最低点(スタンダード)の表を見て、何だか違和感を覚えたのでちょっと掘ってみました。

比較しやすいように農学型スタンダード方式の数値だけ取り出してみました。するとご覧のように去年と今年で序列が変わっています。食料農業システムが得点率で5%増に対して、植物生命科学が18%近い下落となり、昨年2位だったのに4位まで後退しています。

というわけで、関西8大学大研究でもお伝えしますが、受験生が受験学部を選ぶときに合格最低点も大きく作用するものですが、単年度の合格最低点だけで学科選びをすると、あれっ?となりますので、気を付けましょう。というお話でした。

私立大学 「定員厳格化」を検証する(2)

2021年7月1日 木曜日

それでは、公立大学の状況はどうなのでしょうか。

実は、地方都市を中心に、私立大学が公立に転換する例が増えており、公立大学の数は2014年の80校から2021年度の90校まで増加しています。従って国立と逆で全体の定員は増えていますので、それに伴って増加しています。特に2018年から2019年にかけて大きく志願者も増えていますので、このデータだけで判断すると、私立大学に制限をかけた効果があったのかもしれません。但し、その効果はその年まで。その後志願者は減少に転じ、2019年には全国平均で4.7倍だった競争率も、4.3倍まで下がってきています。

同じように中四国の公立大学11大学(公立鳥取環境大学、島根県立大学、岡山県立大学、新見公立大学、尾道市立大学、県立広島大学、広島市立大学、福山市立大学、下関市立大学、山口県立大学、高知県立大学。2016年に誕生した、山陽小野田市立山口東京理科大学と医療系の単科大学は除いています)を取り出して、グラフ化してみました。

すると、全体状況と異なり、2014年から下がり続け、安全志向といわれた2020年には増加しますが、再び減少に転じています。どうやら私立大学の定員厳格化で、地方が活性化する、という単純なものでは無かったようです。むしろ追加や補欠合格によって受験生が混乱する弊害も含めて再度議論されたほうが良いのではないでしょうか。

私立大学 「定員厳格化」を検証する(1)

2021年6月30日 水曜日

2021年度入試に関する総括や報告が各大学行われていますが、コロナ禍の影響による超安全志向で、2月からの一般入試での出願数が少なく、入学手続きの状況も読めないという事で、追加合格を出した大学も増えたようです。一昔前ならある程度定員を超えることも覚悟のうえで、合格発表をしていたのですが、文部科学省による定員厳格化が2016年から段階的に厳しい基準で行われています。地方の活性化も期待しての施策だったと思うのですが、そもそも私立大学の定員厳格化について、その効果は検証されているのでしょうか。

文部科学省のホームページ

https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/senbatsu/1346791.htm

に「国公立大学入学者選抜の志願状況等」という統計資料が公表されていますので、これを元に分析してみました。

まず、定員厳格化が始まる前と、始まった2016年、基準がさらに厳しくなって、私立大学の合格者数抑制の影響が大きかった2018年に着目してみます。まずは全国82の国立大学の前期試験定員と志願者の合計をグラフにしてみました。グラフの左の目盛りが定員、右の目盛りが志願者数です。

ご覧のように、受験人口の減少に合わせて定員は減っていますが、全体的に志願者も減っています。2018年度から2019年度には踊り場がありますが、センター試験最終年度の2020年度入試、コロナ禍の影響を受けた2021年度入試では急角度で国立志願者が減ったことがわかります。

近畿圏と受験生の移動の多い中四国地方の国立の状況に着目してみました。(鳥取大学、島根大学、岡山大学、広島大学、山口大学、徳島大学、鳴門教育大学、香川大学、愛媛大学、高知大学の10大学合計)すると2016年には志願者数が増加していますので、多少は定員厳格化の影響があったのかもしれませんが、2018からはさらに下がり、2020年まで下がり続けています。2021年度はコロナ禍の影響からか近畿圏の私大に関して中四国からの受験生が減ったといわれていますが、地元の国立に留まった中四国の受験生が居たのでしょうか、ひとまず少し増加に転じています。(続く)

【2022年】大阪に日本最大の公立大学が誕生します【新校舎は2025年】

2021年6月18日 金曜日

平成元年には39校しかなかった公立大学も、私立大学からの転換や短大の昇格などで今や94校(令和2年5月時点)。全国で86校ある国立大学よりも数が多くなってきたのですが、私立も含めて少子化の流れの中で、大学は統合によって運営効率を上げ、競争力を付けようという動きが見られます。そんな中、関西には、2019年の法人統合など着々と準備が進んでいる「大阪市立大学」と「大阪府立大学」がいよいよ2022年4月に合併し、「大阪公立大学」が誕生します。(英語表記は、Osaka Metropolitan University)今の2大学を単に足しただけでも日本の公立大学最大、国公立という括りでも、大阪大、東京大に続く全国3位のマンモス校が誕生することになります。専門領域も、薬学部と歯学部はありませんが、法科大学院や医学部、獣医学部、農学部、看護学部などを含む11学部、1学域、15研究科と多岐にわたります。

入学選抜方法も多彩です。募集定員の多くを占める、大学入学共通テストが必要な一般入試では学部によって異なりますが前期・中期・後期に定員を振り分けて、受験しやすくしています。それ以外に専門学科卒業生や国際バカロレア、ユネスコスクール、スーパー・サイエンス・ハイスクール出身者向けの特別入試や産業動物獣医師地域枠など、特定の高校や地域に応じた特別選抜も用意されています。工学部の建築学科には公立としては珍しい「指定校推薦」の制度もあります。学校推薦型選抜も学部によって出願条件が異なり、商学部や医学部、農学部には大阪府枠の設定が、獣医学部では2年以内の英検2級以上など民間の英語検定スコアの提出が出願要件となります。出願資格だけでなく選抜方法も学部や方式・時期によって異なりますので事前の情報収集も大事になりそうです。

学費の減免制度についてです。出席率や成績の状況によっては支援が打ち切られることもあるそうですが、大阪府内に3年以上居住する世帯年収590万未満のご家庭は、入学金と授業料が無償、910万未満の世帯まで段階的に割引になるという制度も設けられる見込みです。ご家庭の状況で大学進学を躊躇していた大阪府内在住の受験生にとっては朗報です。

2025年には大阪市のど真ん中、大阪城公園駅の東側(城東練兵場跡)に96,000㎡(東京ドーム約2つ分)の新キャンパスも誕生し、一部の学部を移設するとの計画も。そうなれば大阪府北部はもとより京都、兵庫、滋賀からの通学も容易となり、地理的にも広い範囲からの志願者を呼び込むこともできるようになるでしょう。

8月10日からオンラインでのオープンキャンパスが開催されますが、個別相談会など事前申し込みの必要なプログラムのエントリーは7月29日(木)18:00からとなっています。お早めにどうぞ。

(このチラシの真ん中の三角形(▶)を押しても、動画が再生されるわけではございません。これはデザインです。)

京都先端科学大学 教員対象説明会に参加してきました②

2021年6月1日 火曜日

その後、工学部の施設見学や授業見学に参りましたが、授業中だったので撮影はできず、画像はございません。しかし、学生さんは全員あたかも受験生のように真剣に取り組んでいる姿が印象的でした。数千万円もする大型の工作機械をはじめとして、様々な実習施設も見せていただきました。プリント基板を自動作成する機械はネイティブの先生から英語で説明していただきましたが、あら不思議、内容が全部聞き取れる!なるほど、日本人に聞き取りやすい発音とテンポ、平易な単語で説明してくださったのでした。今はコロナ禍の影響で開館時間が限られていますが、平時なら24時間365日開館している図書館も併設されています。

と、いうわけで、「2025年には関関同立を追い抜く」という永守理事長の言葉が大げさに思えなくなってきました。今後が楽しみです。

京都先端科学大学 教員対象説明会に参加してきました①

2021年5月31日 月曜日

緊急事態宣言が続く中、大学での教員向け説明会はオンラインで行うところが多いのですが、京都先端科学大学は実際に大学内(京都市右京区太秦)で行われました。(数日前に電話がかかってきたので、「もしや中止?」と思っていたら、説明後の施設見学の希望調査でした。ちょっとびっくり)

冒頭の前田学長挨拶から既に熱いです。

「若者の可能性は無限である。生き残るすべとしてのリベラルアーツ教育にも力点を置きたい。軸になる専門分野を持ちつつ、身に付けておくべき力を身につけて、自分の幅を広げる人材を育てたい。今元気な企業も将来わからない。そんな時代でも生き抜く力を育成する。

入学段階で英語や数学が不得意でも、元気なら身につく。」

いやぁ、熱い。

続いて入学センター長から教育内容についての説明がありましたが、ベルリッツを利用した(丸投げでない)英語教育を例に、TOEICの平均点が100点アップ。中には500点から900点に上昇した学生も紹介され、その教育力の高さが印象付けられました。

しかも、2022年から英語での授業によるMBAを開設予定とのこと。ここで、さらっとリークしておきます。

今春の入試では私大は全般的に出願者数が減ったので、その影響を受けていますが、過去5か年の推移はこの通り。

(続く)

勢いのある大学図書館はどこだ?(その2)

2021年5月27日 木曜日

しかし、冊数だけで判断するのも どうかな 、と思いましたので、図書館費も調べてみました。おおお、流石東大、図書館だけで27.5億円使っているのかぁ。すごいな。京大の約2倍です。

受け入れ冊数と図書館費の相関も出してみました。慶應義塾が抜きんでています。高~い本を買っているのか、本の購入以外の図書館充実に費用が掛かっているのかどちらかわかりませんが、日本で2番目に図書館にお金をかけている大学となります。関西では関西学院、同志社、京都、立命館、近畿・・・の順位になります。

緊急事態宣言が出ている地域では、大学図書館の利用にも制限がかかっているかも知れませんが、このように各大学は学生のために研究や教育環境の充実を図っています。 大学に入学したら、図書館も積極的に利用しましょう。

勢いのある大学図書館はどこだ?(その1)

2021年5月26日 水曜日

大学の教育力の指標の一つに附属図書館の充実が挙げられますが、一般の受験生が大学図書館を簡単に比較することは難しいでしょう。そこで、今回朝日新聞社出版の「アエラムック2022大学ランキング」という冊子に掲載されている数値を元に分析してみました。まずは蔵書数ランキングベスト20。

東京大学って980万冊もあるのですね。4年間365日24時間本を読み続けたとしても、12.8秒に1冊読まなければ読み切れない計算になります。頑張れ東大生。

次は受け入れ冊数のランキングです。つまり年間に蔵書が何冊増えたのかという数値です。ここでもトップは東京大学。毎年10万冊近く本を買っているのですね。図書館の職員さんの月間労働時間を160時間とすると、年間の労働時間は1920時間。9万6千冊の本にラベルを貼り付けてデータベースに登録し、書架に並べる作業を1分あたり約1冊、休みなしに続けなければならない計算になります。頑張れ東大職員。

という冗談はさておき、この二つの指標を掛け合わせると、現存の蔵書数に比べて受け入れ冊数の大小で、大学の研究や教育に力を入れているのかどうかが見えてきます。そこで、受け入れ冊数がわからない広島大学を除く蔵書数15位までの14大学で相関のグラフを作ってみました。この点線の上が受け入れ冊数が多い、つまりこれからの研究や教育に力を入れている大学という事になります。関西では関西学院と同志社が頑張っています。(続く)

【スクープ】奈良女子大 2022年工学部新設【国立女子大初】

2021年4月27日 火曜日

理系女子にとっては吉報です。奈良女子大は4月1日に、2022年度から工学部工学科を開設する方向で準備を始めると発表しました。国立の女子大といえば、東京のお茶の水女子大学と奈良女子大学の2校しかありませんが、どちらも、教員養成を含む文学系、理学部、生活科学系の3学部構成となっています。

しかし、日本の大学では理系、特に工学系は男子が多く、女子の割合は約15%にしか過ぎません。この原因の一つに女性の理科教員に工学部出身者が少ないことが問題ではないか、女子に工学の魅力を伝える機会が少ないのではないか、ということで、あえて女子大に工学部を設置しようとなったようです。工学部といえば入試科目でも物理と数Ⅲが必須になると思うのですが、募集要項など詳細については今後の発表を待つことにしましょう。

【まだまだ迷走】大学入学共通テスト関連ニュース【将来も検定は使わない?】

2021年4月22日 木曜日

4月20日の午後に文部科学省15階の特別室で開催された「大学入試のあり方に関する検討会議(第25回)」によりますと、ひとまず令和5年度(2023年度)までは導入を見送った、英語の民間資格・検定について、令和6年度(2024年度)以降も活用を見送ることで一致したそうです。今までの議論でも指摘されていた、実施回数や受験料が異なる複数の検定を同一視することや、経済的・地理的な要因で格差が生まれる可能性があるなどの問題が解決できていない以上、利用を前提としていた制度設計には無理があると判断されたようです。当初は大学入学共通テストの英語は無くなり、すべて民間資格・検定に置き換えるとされていましたが、その可能性が消えた形です。つまり大きな改革を目指していた大学入学共通テストですが、結果的にセンター試験とあまり変わらない形に落ち着きそうです。

それに伴って、民間資格・検定と内容的に重なるために今年の大学入学共通テストから削除された、「発音・アクセント」や「語句整序」の復活も考えられることになります。制度切り替わりの影響を受けた去年の高3生も大変でしたが、次年度以降の受験生も最新のニュースに敏感になる必要がありそうです。