旧帝国大学と学部

2017年1月10日 火曜日

戦前から日本の高等教育システムの中で特権的な地位を占めていた帝国大学ですが、戦後は占領下で行われた学制改革(6・3・3・4制)の中に組み込まれることになります。つまり他の新制大学と同じ位置づけとなったわけですが、昭和23年8月に文部省が通知した「新制国立大学実施要項」によりますと、「国立大学は、特別の地域(北海道、東京、愛知、大阪、京都、福岡)を除き、同一地域にある官立学校はこれを合併して一大学とし、一府県一大学の実現を図る」とされました。この「特別の地域」以外の国立大学は「地方国立大学」として一府県ごとに一校の新制大学が誕生したわけですが、この「特別の地域」の旧帝国大学と、それに含まれない宮城県の東北大学を併せて、国内の旧帝国大学は旧制高校を教養学部(教養部)という形で吸収合併し、総合大学として存続することになります。

 

昭和27年から平成29年の65年間に、この旧帝国大学でどれほどの学部が増設されたのかを一覧にしてみました。黄色に塗ってある所はこの間に増えた学部、水色に塗ってあるところは、他大学を合併して誕生した学部です。

まず、驚くべきなのは、この間に消えた学部が一つもないという事です。私立では教養系の学部の改組や募集停止などがよく見られますが、東京大学の教養学部は65年経った今でも存続しています。また、他の大学も含めて増設された学部は薬学部と歯学部以外、ほとんどありません。つまり旧帝国大学に関しては、65年前の学部構成で世界と戦い続けていることになります。逆に言えば、当時の組織設定が半世紀以上経った今でも通用する素晴らしいものであったともいえます。

数少ない新設された学部についていくつか紹介しておきます。

北海道大学の「獣医学部」は農学部からの分離独立です。「水産学部」とあわせて、北海道大学を特徴付ける学部構成です。

京都大学の「総合人間学部」は教養部を解体して生まれたものですが、宗教学、心理学、文化人類学から現代社会論、語学など幅広い学問分野をカバーする学部です。

一方学部名が似ている大阪大学の「人間科学部」は社会学、教育学や行動学としてサルの研究をしているなど、かなり内容が異なります。従って、センター試験の結果によってこの二つのどちらかを選ぶのではなく、内容で選びましょう。ちなみに大阪大学だけ教育学部がありませんが、人間科学部がその役割を担っています。

「人間科学部」という学部は今日では早稲田大学をはじめとする私立大学に数多くみられ、国立でも今年4月に島根大学にも新設されるなど、もはや珍しくはありませんが、大阪大学が1972年に設置したのが日本初です。一方「総合人間学部」という名前の学部を設置しているのは京都大学と東京のルーテル学院大学の2大学のみです。

九州大学の「芸術工学部」は国立の九州芸術工科大学を合併したものです。建築のみならず映像、音響などのデザインを専門に扱う学部で、全国から学生が集まっています。

大阪大学の「外国語学部」も国立の大阪外国語大学を合併して誕生しましたが、校舎は元のまま、離れた場所にあり、豊中本部との移動は「再履バス」(再履修の学生が移動するためと揶揄して呼ばれている無料スクールバス)で30分ほどかかります。そこで今でも独立したクラブ・サークルが存在します。東京外国語大学とよく比較されますが、スワヒリ語、ハンガリー語、スウェーデン語、デンマーク語が学べる国立大学は日本にここしかありません。

学部ではありませんが、九州大学の「21世紀プログラム」というのは、特定の学部に属さずに卒業できるというシステムです。どの学部を受講してもよく、卒業後は「学士(学術)」という学士号が与えられるというものです。興味・関心や問題意識が固まっている学生にとっては面白いシステムだといえるでしょう。

 

帝国大学は朝鮮半島と台湾にもありました。しかし募集定員は少なく、昭和17年度では朝鮮半島の京城帝国大学は3学部計200名、台湾の台北帝国大学は3学部計160名と小規模だったようです。いずれも終戦後廃校になりましたが、その遺産はそれぞれソウル国立大学、国立台湾大学に継承されて残っているそうです。